祈るしか方法がありません。

「調律師さんですか…先日調律して頂いたばかりなのに、音の出ない鍵盤があるのでお願いします。」
…なんか、ムッとしてる感じ。名前も言わず電話切られてしまったが、どちら様かだいたいの見当は付く。
早速折り返しの電話確認…
「…M78星雲のウルトラマン様の御宅でしょうか?」
「シュワッチ」…「早速鍵盤の修理にお伺いしますので、◯月◯日◯曜日午前0:33分30秒のご都合は如何がでしょうか?」
「シュワッチ」…相変わらずそれしか言わない…
で、クレーム内容はと云うと、20年ほど調律の空いているピアノの調律依頼を受けてひと月ほど前に伺ったわけです。ピアノの前蓋を空けるとピアノの内部が見える。
明らかに湿気の影響だと分かる…
「ハンマーの位置がバラバラで、定位置に戻ってないハンマーがいっぱいありますでしょう…これは、長い間ピアノが眠っていて使用しないうちに、ピアノの関節に湿気が溜まって動き難くなってるんでしょうね。」…改めて見直すとセンターピン等の部品交換の必要はなさそうだ。あれこれ準備万端整いまして、調律も無事終わり、また、このような湿気のある場合はキチッと現状説明してから帰らないと後でクレームになるケースが今迄の経験上とても多いので「要は水が乾ききらない状態で洗濯して半乾きの洋服を手に通すと引っ掛かって着にくいでしょう?あれがさっきまで、ピアノ全体に発生してたんですよ。」とその説明も済まし調整も終わり、仕事終了の達成感を覚えながら帰って来たわけですよ。で、ひと月経ったら案の定、あしたのジョー。

再度訪問すると鍵盤にシールが張ってある、早速「ハハーン、ドとレとミとファとソとラとシの音が出てないんですね。…真ん中で一番使う音ですね。」…前蓋を外してピアノの中の状況説明をする。「ジャックスティックとゆう状態で木製の関節が湿気水分を吸収して摩擦が大きくなり木の関節どおしがスムーズに動かなくなっているんです。要は水だから蒸発すれば治りますので心配は入りません。木部関節の湿気を乾かしましょう、ヘヤードライヤーで乾かしますのでご拝借頂きたいのですが。」
お客様の見ている前で20分ほどドライヤーで熱風を当てる、これだけの作業で気持ち良く動くようになった…」
で、どんなもんだいとチラッとお客さんをうかがう…
「あっ、直りましたね。で…また一番使う、ドとレとミとファとソとラとシの音が出なくなったらどうするんですか?、また電話さしあげてもよろしいですか?」…ここのところ雨ばっかりで天気悪いからな~……しばし沈黙
「シュワッチ…その時はかみさまにお祈りするしかありません。」